　いろ、をもらったひのこと、おぼえてる。

　めをあけて、いっとうさきに、めがちかちかしたの。
　きんいろのせんが、めのうらでぱちぱちするみたい。
　それから、なないろのほしがたくさんふって、あけられないの。
　それで、じっとしてたの。
　ぼんやり、ふたっつ、まるがうかんだわ。
　こすってみたら、きらきらきれいな、おひさまいろのほうせきだった。

　あのこはわたしをじっとみてた。わたしだけをみてた。

　あのこといっしょにねて、おきて、たくさんをしった。
　あのこのいろをおぼえたわ。
　あのこのこえをおぼえたわ。
　あのこのねつをおぼえたわ。
　あのこのにおいをおぼえたわ。

　せかいがまっくらになると、あのこはそうっとしずくをうむの。
　どうしてうまれるのかわからなかった。
　だっておしえてくれないのだもの。
　おしえてほしくて、あのこのゆびをひっぱったり、てのひらをつついたりしたわ。
　そうしたら、しずくがあたまのてっぺんにおちてきたの。
　びちょびちょになって、それから、むねのあたりがあふれるみたいになったの。
　さいしょはね、翠のそこ、なんにもなかった。
　でも、はじめてめをあけたときみたいに、たくさんのものがはいってきて、くるしいくらいいっぱいになったの。
　あんまりくるしいから、翠はぎゅって、めをつむったの。
　いきができなくて、うなったわ。
　そうしたら、翠もあのことおんなじしずくをうんでたの。
　あのこ、びっくりしてたわ。翠もびっくりしたもの！
　
　翠がうんだもの、〈こころ〉とよぶのですって。
　かなしい、さみしいって、あのこはいった。
　でも翠がいっしょだからいまはちがうって。
　うれしくて、たのしくて、
　それから、翠のことが〈すき〉って。

　〈すき〉は翠よくわからない。
だって、かなしいときはしずくがでるのに、たのしいときはニコってするのに、〈すき〉のときは翠をじーっとみるだけなんだもの。
　でも翠、みられるとうれしい。
　だから〈すき〉はうれしくて、あったかいものよ、きっと。
　もらったら、あのこもきっとうれしいわ。
　だから、いっぱいすきっていうの。

　めがさめたら、まっさきにすきっていうわ。
　おねむりってあいずに、すきってかえすの。
　あのこはいつも、なんだかはっきりしないかおをするのだけど。
　でもおかおをみてたら、むねのあたりがまたあふれそうになるの。
　〈すき〉は、かなしいよりも、たのしいよりも、翠をすぐいっぱいにするの。
　だからわけてあげなくちゃ。翠、くるしくなってこわれちゃう。

　〈すき〉もあのこがくれたいろのひとつなのだわ。
　翠はね、あのこにも、おんなじようにあげたいの。
　たくさん、たくさん、あげたいのよ。

探花抄Ⅰ〈彩〉