　その国では女王が崩御すると、臣民である若い娘たちは殯に参列せねばならない。
　とある娘は年頃になるまで己の容姿を気に掛けたことがなかったが、見目麗しく身なりのいい青年に求められ、初めて自分が美しいことを知った。
　それからは朝に夕に、水鏡に映る己の顔を、青年が褒めちぎるかんばせを眺めては悦に浸った。
　青年と娘は想い合い婚約を交わしたが、女王がその年お隠れになり、娘は殯に参列すべく都へ発った。行って帰ってくれば幸せな日々が待っている筈だった。
　都につくと、娘は云いようのない不安に襲われた。何故だか胸がそわつく。
　白亜の殯宮に足を踏み入れたとき、体の粟立ちは最大となった。悼みに頭を伏せる娘たちの列は順調に進んで、自分が柩に花を捧げる番となった。玻璃の柩に眠る女王の体は千に及ぶ白い花に埋もれてよく見えないが、腐臭を放っていた。娘は怖ろしさに震える手で花を添えた。
　つい──
　女王の顔を、覗いてしまった。
　娘は息を呑んだ。そこに埋もれていたのは己の顔だった。
　あ、と声を発したときには遅かった。視界が傾ぎ、娘の体は玻璃の柩に落とされた。
　気がつくと、腐臭を放つのは己の肉体だった。おぞましさのあまり救いを求めて目を彷徨わせると、真上から覗き込む者があった。
（わたしのかお──！）
　覗いていたのは己だった。形の良い唇がそっと動く。
　──見つけた。ぴったりの、器。
　──お前は私になって、私はお前になるのだ。
　自分と同じ顔、いや全くそのものの顔をした娘は、確かにそう云った。
　殯のあとで新たな女王が王冠を戴いた。帰ってこない婚約者を迎えに都へ訪れた青年は、新女王の戴冠式を目にした。唖然とした。
　そこには己が愛した娘に、うり二つの面があった。